金融のフロント業務に特化して、コンサルティングからシステム開発、導入、運用保守までを一気通貫で手掛けるシンプレクス株式会社。「金融」、「IT」、「コンサル」の3つを掛け合わせたB to Bの事業を展開しています。この春には100人を超える新卒社員が入社し、全体で800人規模に。設立から20年にわたり、高品質なプロダクトでクライアントの期待に応え続けてきました。
そんな同社のなかでも特にシステムの開発を担う部署「金融フロンティアディビジョン」はScrapboxを登場当初から導入。今ではほかの部署にもScrapbox文化が波及しているそうです。今回は同社でのScrapbox利用について、エグゼクティブプリンシパルの水谷倫之様、アソシエイトプリンシパルの大冨健一様、プロフェッショナルの澤田正瑛様のお三方にお話をうかがいました。
水谷倫之様
シンプレクス株式会社 金融フロンティアディビジョン エグゼクティブプリンシパル
大冨健一様
シンプレクス株式会社 金融フロンティアディビジョン アソシエイトプリンシパル
澤田正瑛様
シンプレクス株式会社 金融フロンティアディビジョン プロフェッショナル
「ディスカッションを流したくない」Scrapboxを導入した理由
まずはScrapbox導入の経緯を教えてください。
大冨「いつ導入したのかははっきり記憶していませんが…『新しい社内Wikiがあります』という増井俊之さん(Nota Inc. CTO、Scrapbox開発者)のツイートを見て、ミートアップに参加したのがScrapboxとの最初の出会いです。(2016年開催)もともと増井さんのファンだったこともあり、『増井さんが勧めるなら間違いないだろう』と、正直あまり深く考えずに使い始めました。それまでは別のコラボレーションツールを使っていましたが、情報が流れてしまうことに使いづらさを感じていたんです。その時々のディスカッションは成立しても、あとで記録された内容を確認しにくい…何が決定して何が未決定なのか、整理しにくい状態でした」
水谷「それに、Scrapbox以前のツールは、多機能でいろいろなことができる反面、使い方も難しかったので、使いこなせるリテラシーの高い人の間だけで機能していて、全社的に見ると活発ではありませんでした。ちなみに僕もほとんど使っていませんでしたね」
なるほど。以前は「ディスカッション」における課題を抱えていたということですね。
大冨「そうですね。『議論を残す』という習慣が定着しておらず、そのため、例えば進行中のプロジェクトに途中から関わった人は、どんな変遷で今の状態に至っているのか、状況を把握するために余計な時間を費やしていました」
試行錯誤の過程は宝の山。Scrapbox導入後に起こった変化
以前抱えていた課題は、Scrapboxを導入することでどのように解決したのでしょうか?
大冨「過去の状況を把握できていないことが原因で起こっていた品質や効率の低下は、少なくなっていると肌感覚で実感しています。やはり試行錯誤の過程は『宝の山』。普通なら経験した人にしかわからない知見がテキストとして残り、Scrapboxというオープンなシステムによってチーム全員のノウハウになるということは、とても大きな価値があると感じています」
水谷「それに、若手に話を聞いてみると、Scrapboxを導入したことで、直接関わりのない先輩の仕事にも関心が芽生え、その先輩が携わるプロジェクトのページを閲覧するなど、自主的に勉強するようになったようです。若手がScrapboxから能動的に情報を拾うようになったことがどこまで影響しているかは分かりませんが、最近若手からの質問が変わったという気がしています。」
それはおもしろいですね。今の水谷さんのお話を聞いて、澤田さんは若手の立場としてどう感じますか?
澤田「水谷の言う通り、先輩との距離は縮まり、幅広い知見が得られるようになりました。『先輩に自分の意見を聞いてもらえるようになった』という感覚ではなく、どちらかというと『先輩・後輩関係なく、同じ土俵に立てるようになった』という実感が強いです。例えば、私たち後輩が書いたものを先輩が一方的に読んでダメ出しするような文化だと、どうしても前向きな気持ちになりづらいですよね。。Scrapboxでは先輩たちも率先して書き、若手のページにもコメントをしてくれる。『ダメ出し』ではなく『議論』が深まるのは、Scrapboxのシンプルで階層構造のない世界観だからこそなのかもしれません」
コードレビューから共有のToDo管理まで。シンプレクスのユニークなScrapboxの利用方法
Scrapboxの主な利用シーンを教えていただけますか?
大冨「開発工程におけるコードレビューではScrapboxをよく使っています。他にも、若手が共同編集で日報のようなものを毎日新しく1、2ページで立ち上げて作成していますね。先輩社員がそれを見て、コメントを入れるというやりとりもすっかり習慣化してきました」
水谷「他にはプロジェクト単位で『ToDoリスト』ページを共有して使っています。月ごとに各自が抱えるToDoを登録し、完了すると随時カットアンドペーストしてDone(完了)としてページの下に移動。残った分は翌月のページに繰り越すという運用方法です。誰が何をやっていて、どれくらい達成できているのかを俯瞰で見ることができてとてもいいですよ。その中で、ずっとToDoが持ち越しになっている人に誰かが茶々を入れたり(笑)情報共有とともに、カジュアルなコミュニケーションの場になっています」
気付けば自然と浸透していた。Scrapboxを社内に広めるためにやった、たった1つのこと
Scrapboxを社内に浸透させるうえで苦労したことはありますか?
大冨「広めるといった意識はあまりなくて、普通に使っていたら結果的に広まったという印象です」
澤田「広められて使い始めた立場からすると、最初からたくさんのページが準備されていたのが良かったのだと思います。書き始めるときのハードルが低くなったし、他のページを見て『ルールに縛られず自由に書いていいんだ』と、感覚として掴めました。私を含め新入社員は、最初の1ページを恐る恐る書いてからは、誰に何を言われることもなく、次々にページを増やしていった…そんな印象です」
つまり、「Scrapboxを使いなさい」と強制するわけではなく、大富さんがおっしゃったように、先輩が当たり前のように日常的に使っていた…その状況がScrapboxの浸透を加速させた、ということですね。
大冨「そうだったのかもしれませんね。澤田の話を聞いて納得できました。それに、Scrapboxは閲覧する側にかかる負担が少ないので、初見の人にも受け入れられやすく、浸透しやすいと思います。ほとんどのチャットツールは情報がどんどん流れさってしまうので、最初受け身の姿勢だと情報を追いかけるのに必死。その波に乗れないと、次第に開かなくなってしまいます。しかし、瞬発的なコミュニケーションはチャットツールが向いている。ということで、うちのチームでは全社的に導入しているチャットツールSlackとScrapboxを使い分けています。議論を始めるにあたっての呼びかけをSlackで行い、議論自体はScrapboxでページを作って行うといった具合に、双方の特性を活かした使い方をしています」
ありがとうございます。それでは最後に、今後のScrapboxの活用について、展望を教えてください。
大冨「弊社では現在約70人のメンバーがScrapboxを使っていますが、まだ全社で導入しているわけではありません。きっと他の部署でも既存の仕事に課題感を抱き、その原因がツールにあると感じている人はいるでしょう。そういった部署にはScrapboxの活用を進めていきたいです。もちろんその際は、積極的にプッシュするわけではなく、自然に浸透していけるよう、サポートしたいと思います」
水谷様、大冨様、澤田様、ありがとうございました!
(文、写真・下條信吾)