一緒に写るのは公式バーチャルYoutuber兼広報のくらすたーちゃん。
近年VRの技術が進化する中、バーチャルイベントプラットフォームの開発・運営事業を展開する企業として、2015年に設立されたクラスター株式会社(以下、クラスター)。
誰もが気軽にバーチャルイベントに参加したり、開催したりすることができるサービス「cluster」により、実際のロケーションに囚われず、多くの人が“一同に集える世界”を実現しました。
同社では、開発やデザインチームを中心に、全社でScrapboxを使っています。
今回は、同社における最適なドキュメンテーションの在り方を求め、Scrapboxの導入を推し進めたプラットフォーム開発部の東峰裕之さんに、導入の経緯や活用方法をお聞きしました。
クラスター株式会社 東峰裕之様
1986年生まれ。はてなインターンに参加したのち、サイボウズ株式会社に入社。
2014年に Increments 株式会社に参加し、 Qiita/Qiita:Team のデザイナー・PdMを担当。コミュニティ活動として、新しい情報共有についてのあり方を考える『情報会議』を主催した他、2016年からはProduct Manager (PdM) についてのカンファレンス、『pmconf.jp』 の実行委員をつとめる。2018年12月からクラスター株式会社でVRイベントプラットフォームclusterのWebデザインを担当。デザイナーやPdM、コミュニティマネジメントが仕事。
リテラシーの高いチームが認めた。「ラフに知見を蓄積できる」Scrapbox
はじめに、御社がScrapboxを導入した経緯や、当時の課題を教えてください。
「まず、クラスターは僕が入社する前からテキストをアウトプットする文化がしっかりと根付いていて、リテラシーの高い人が多いからこそ、常により良いツールを探す姿勢がありました。僕も前職の頃からいろいろなツールを試していて、それなりに知識もある方でしたが、ここでは結構マニアックなツールの話をしても、『それ知ってるよ』みたいな感じ(笑)。みんな詳しくてビックリしました。主に企業向けのwikiツールと、コミュニケーションツールの2つを併用していましたが、wikiツールは重要なドキュメントを残したいときは重宝するけど、気軽に書くことには適していない。一方コミュニケーションツールは気軽に書き込めるけど、情報が流れてしまって議論が深まらない。どちらも帯に短し襷に長しという状況で、アウトプットの量が減っていました。もっとラフにドキュメントをアウトプットでき、なおかつ知見を蓄積できるものがないか考えた結果、Scrapboxが最適だと。」
Scrapboxを導入することを御社内で提案したのは東峰さんとお聞きしていますが。
「そうです。個人的にScrapboxが大好きだったので『クラスターでも使いましょうよ』と提案したんです。僕自身はScrapboxのプロトタイプが発表された時にその存在を知り、イベントなどに参加して、2016年頃からプライベートで使うようになりました。」
プライベートではどのように使っていましたか?
「かなりいろいろな場面で使ってきました。最初はVRゲームの『ビギナーズガイド』的なwikiを作り始めましたね。当時VRゲームが登場し始めた頃、まだあまり情報がなかったので、海外の攻略記事を翻訳したサイトをまとめていきました。」
「他には、リモートワークを考えるコミュニティを立ち上げたことがあって、ここでも参加者同士のコミュニケーションの場として、また、知見を集約する場としてScrapboxが活躍しました。リアルなイベントを開催した時はプレゼンテーションモードが役立ちました。」
先日のDrinkupでも登壇していただきましたが、日本の自作キーボード好きが集まって情報交換を行うDiscord server「Self-Made Keyboards in Japan 」でもScrapboxを利用されていますよね。
「そうですね。同コミュニティのwiki機能をScrapboxで開設しました。もともとはDiscord serverに付随したwikiがありましたが、あまり更新されていない状況で…。Scrapboxに移行してみると、とたんに自作キーボード界隈の人が集まってきて、急激に記事が増えていきました。これは僕の中でもかなり大きな成功体験でしたね。最近では自作キーボードのキットを購入すると、モノによっては説明書にScrapboxのページリンクが書かれていたりするらしいです(笑)。」
「考えてみると、Scrapboxが登場するまでは、ドキュメントを公開して活用するコンシューマー向けのwikiの中で“真新しいもの”ってほぼなかった気がします。いわゆる“昔ながらのwiki”をモダンなUIにした、みたいなツールはあっても、さわってみると複雑で使いづらい。シンプルで書きやすいものをずっと探していました。」
「スタンドアップミーティング」「ウィンセッション「雑LT」クラスターのScrapbox利用シーン
現在、社内では具体的にどのように使っていますか?
「まずはデイリーで行なっているスタンドアップミーティングの議事録ですね。チームによってやり方は異なりますが、僕の所属するチームでは、昨日までにやったことと今日やることを事前に書いておいて、それを見ながらミーティングし、書き加えていきます。他には週に一回の「ウィンセッション」。これは、その週にやった自分の成果を自慢しあう会です。以前は別のツールを使っていましたが、最近Scrapboxに移行してきました。」
「他には、リリースされた機能に関するフィードバックを社内で集めたり、プロジェクト完了後に振り返りをしたり。こうした会議は付箋を使ったワークショップ形式で行うこともありますが、Scrapboxを用いることでオンライン上でそれに近い感覚を得られます。自由に意見を出し合い、グループ化しながら参加者全員で思考をまとめていくことができます。」
かなりいろいろな使い方をされているようですね。他のツールとの使い分けなど、ルールはありますか?
「先ほどお話した企業向けのwikiツールも並行して使っています。Scrapboxで議論を深め、決定したことを正式なドキュメントとしてそちらにまとめるという流れ。Scrapboxには、個人の細かいメモレベルのドキュメントもたくさんあります。自己紹介のページもありますし。最近面白かったのは『雑LT』というページ。業務に直結しないことや、情報が整理されていないことなど、なんでもいいので文字通り“雑に”LTをする会。こんなふうにラフなやりとりでも最終的に有意義なドキュメントに成長するのは、Scrapboxならではだと思います。」
階層構造がなく見通しが良い。Scrapboxは「気軽さ」が最大の魅力
Scrapboxのどのようなところが気に入っていますか?
「とにかくシンプルで見通しが良いんですよね。古いwikiはまずツリー構造を考えて、どこに何を書くかを考えなければいけない。初めて参加する人は『場を荒らしてしまうのではないか』と恐れてなかなか書き込むことができないし、管理する側は、秩序を保つためにさまざまな運用ルールを設けなければならない。Scrapboxではそういった考えは不要です。」
「形式知にできないドキュメントを気軽に書けるのが、Scrapboxの最大の魅力だと思います。個人のネタ帳がみんなの財産になるという感覚。『Scrap』というワードの通り、断片でも情報を吐き出せる他にはないツールですね。」
社内でScrapboxを広めるうえでのポイントなど、何かありますか?
「まず『README』のページを読んでザックリと使い方を理解してもらい、その後チーム単位で僕がレクチャーをしていきました。あとは先ほどお話した『ウィンセッション』で毎週書くことになるので、その中で自然と慣れていってもらった感じです。Scrapboxは最初に概念を理解するのに少し時間がかかると思います。ポイントは、今回はまず弊社の代表がScrapboxを試しに使い、その概念に共感してくれたということ。トップの人間が『良い』という肌感を持つことができれば、それはつまり会社の考え方に近いツールということであり、トップダウンで浸透しやすいと思います。今では開発チームだけでなく、インターンやアルバイトのメンバーも使いこなしていておもしろいですよ。」
情報を「整理」する楽しさより「共有」する楽しさ。Scrapboxと相性の良い企業とは?
それでは最後に、Scrapboxはどのようなシーンでの利用に適していると思いますか?Scrapboxの導入を検討している方の参考になるようにお聞かせください。
「先ほどお話した、リモートワークを考えるプロジェクトや自作キーボードの集まりのように、特定のジャンルのコミュニティで使って知見を吸い上げるみたいなシチュエーションとの親和性は抜群だと思います。一方で、企業が導入するうえでボトルネックになるのが、『ツールとしてはまだ難しい部類に入る』ということ。使い方が難しいという意味ではなくて、概念がいい意味で“普通じゃない”と思います(笑)。」
「情報共有のためのツールなのに情報を整理するための手段がほとんどないって、すごいですよね。整理していく満足感を得るためには、やはり階層構造やフォルダ分けという概念が欲しくなる。しかし、それこそが整理するうえでのハードルを上げてしまう…。組織自体にもそうした階層構造的な概念がある企業だと、Scrapboxは浸透しにくいかもしれません。弊社のように、もともとドキュメンテーションを活用する文化が根付いていたり、個人対個人のダイレクトメールを使わずに情報を広く共有するような透明性を大事にしていたり、社員同士が階層構造に囚われないフラットな社風だったり…。そういった企業がScrapboxを使ったら、きっと『これこれ!』となるのではないでしょうか。継続的なアウトプットが習慣づき、共有された知識は誰のものでもなく、全員のものになる。素晴らしい世界観だと思います。もちろん、使い分けのルールをしっかり考えておけば、別のツールと併用するのも全然アリだと思います。」
東峰様、ありがとうございました!
(文・写真/下條信吾)