業界:ソフトウェア開発
使用用途:組織内のナレッジ共有
課題:より良い製品開発に必要となるナレッジが、組織を超えて共有されなかった
| 記事の要約 |
- より良いソフトウェア開発をするために必要となる技術知識や専門用語などのナレッジが、担当機能ごとのチームを超えて共有されにくい課題感があった
- 設計部門でHelpfeel Cosense(コセンス)を導入する話が持ち上がった時期に全社ワーキンググループでも同じ課題意識があがり、部門を超えたナレッジ共有の文化を根付かせることを目指してCosenseを導入。全社導入に向けて、設計チーム、ワーキンググループと段階的に利用者を増やしていく形で運用をスタートした
- 全社導入に至るまでに、利用状況と課題点を定期的に分析しながら、気軽にCosenseを使うことを丁寧に呼びかけて浸透を進めた。導入から5年が経ち、他チームがもつナレッジが探しやすくなっただけでなく、Cosense上でエンジニア同士が課題解決をしたり、勉強会の内容を共有しやすくなったりする効果が見られている。今後は、コラボレーションも推進して、情報から価値を生み出す状態にしていきたい
ソニーデジタルネットワークアプリケーションズ株式会社は、ソニーグループで唯一のソフトウェア開発の専門会社として、ソニーのデジタル機器用組み込みソフトウェアと先進のオープンプラットフォーム上でのソフトウェア開発を行っています。
同社では、より良いソフトウェア開発に必要となる他チームのナレッジを把握しにくいという課題があり、ナレッジ共有ツールとしてCosenseを導入。全社展開に至るまでにさまざまな啓発活動を行い、今ではチームを超えてナレッジ共有しやすくなったほか、さまざまな効果が見られています。
Cosenseの導入理由や活用方法、仕事の変化などについて、設計1部4課 統括課長 西村 真人様、同課の淺井 成充様、設計2部1課 井ノ上 泰地様に話を伺いました。
より良いソフトウェア開発をするには、担当機能以外のナレッジも必要
設計1部 4課 統括課長 西村 真人 様
── はじめに、貴社の事業内容と、皆さまの部門の業務内容を教えてください。
西村様 当社はソニーグループの製品に対してソフトウェア機能を提供する、ソフトウェア開発の専門組織です。社員は300名ほどで、その大半がソフトウェアエンジニアとなっています。
部門は大きく6つあり、ソフトウェア開発組織は担当製品の領域によって設計1部〜3部があります。さらに、今後必要な技術を見極めて事業に取り込んでいく事業推進部と、バックオフィス部門がある組織体制です。我々3名は、主にデジタルカメラや、エンタメ関連のソフトフェア開発に携わり、ソニーグループ内の様々な組織と開発プロジェクトで協業しています。
── 当時はどのような課題感を持っていたのでしょうか。
西村様 以前、カメラのソフトウェア開発をしていた際、チームを超えて技術知識や専門用語を共有できていないことに課題感がありました。オートフォーカス機能を開発しようにも、その技術しか知らない状態では良い機能は生み出せません。その機能でしか使わない技術、他の機能と連携しない機能というのはないからです。
ところが、他のチームがもつ技術を知りたいと思っても、組織の壁があって把握しにくいという現実がありました。さらに、ソニーグループの製品開発は大規模プロジェクトが大半で、チームの数も多いため、自分から情報を取りに行かないと全体像が把握できないケースが少なくなかったのです。必要な情報を探すだけでも、かなりの時間が割かれてしまっていました。そこで、情報共有やコラボレーションをするためのツールを導入したいと考えるようになったのです。
── 抱えていた課題を解決するために、Cosenseを導入したきっかけや理由を教えてください。
設計1部 4課 ソフトウェアエンジニア 淺井 成充 様
淺井様 私がプライベートでCosenseを使っていて、西村に「チームで導入したい」と提案したのがきっかけでした。
当時、カメラ開発にまつわる専門用語はパワーポイントの資料で管理されていましたが、製品がアップデートされるたびに新しく資料を作っていたため、ファイルの数は増え続ける一方だったのです。そのため、膨大な数のファイルから欲しい情報を探しても見つからないことが頻発していましたが、ベテラン社員に聞くなどして凌いでいました。
西村様 淺井がチーム内でCosenseを導入する話を持ちかけてくれた時期、ちょうど社内では「技術共有ワーキンググループ」が立ち上がったタイミングでした。
各エンジニアの知識が担当製品に限定されるという課題を解消するため、このワーキンググループが立ち上がり、全社的なナレッジ共有のためのプラットフォームの検討を行っていたのです。
こうした状況をふまえて、Cosenseの全社導入を提案し、段階的に広めていく形で進めることになりました。まずは3か月間、我々カメラ開発のチームでCosenseをトライアル利用し、その成果を持って、全社導入したいとプレゼンテーションを行い、グループ内で合意を得ました。2019年7月のことでした。
当社は、ソニーグループ内では小規模の組織であるメリットを生かして、先進的な取り組みをどんどん行っている企業です。ワーキンググループでのツール検討でも「モダンなツールを採用する」という方針がありました。この方針とCosenseの特徴がマッチしたこと、そして発案者である淺井や積極的に利用していた井ノ上の熱意も導入の決定要因だったと思います。
井ノ上様 当社はコミュニケーションを重視するフラットな企業文化を大切にしています。ワーキンググループ向けに私がプレゼンテーションをした際に、Cosenseはこうした風通しの良さを実現できるツールでもあることも理解してもらえたように感じました。
西村様 当社はボトムアップでワーキンググループが立ち上がったり、自主勉強会が頻繁に開かれたりしていますが、現場の発案で投資が発生するツールが導入されたのはCosenseが初めてかもしれませんね。淺井や井ノ上の熱意に、皆が巻き込まれていきました。
暗黙知を形式知にするには、心理的ハードルを下げることが先決
設計2部 1課 ソフトウェアエンジニア 井ノ上 泰地 様
── トライアルでは、誰がどのようにCosenseを利用していましたか。
淺井様 カメラ開発をしていた我々のチームでCosenseを使い始めた当初は、当時新入社員だった井ノ上が一番のヘビーユーザーでしたね。
井ノ上様 私は、新人向けの講習会の勉強メモを書くことから使い始めました。新たに覚えた専門用語があればそのページを作ったり、作業ログを書いたりしていましたね。
気兼ねなくCosenseを利用できたのは、最初からCosenseがある状態で現場に配属されたことと、リーダーの西村や淺井がカジュアルなことも含めてさまざまな書き込みをしていたのが大きいと思っています。「こんなふうに使っていいんだ」と、最初から心理的なハードルを感じずに使うことができたのです。
西村様 皆が気軽に使ってもらえるよう、私が率先して仕事の悩みごとなどをCosenseに吐露していましたね。「新規事業プロジェクトが難航していて辛い」といったことも包み隠さず、日記のように書き込んでいました(笑)。
このトライアルで実感したのは、暗黙知を形式知にするためには、Cosenseに書き込む心理的なハードルをなくすことが先決だということです。
気軽に何でも書いていいという雰囲気をつくるのも大切ですし、Cosenseは構造化されていないナレッジ共有ツールだからこそ、この心理的ハードルが下がりやすいと思いました。構造化されているツールだと「この情報はどの場所に書けばいいのだろう」と迷ってしまい、結果として書き込まないことが起こりがちです。
井ノ上様 Cosenseは、「書く」という行動に対するハードルが低いのがいいですね。編集ボタンがなく、画面を開いたらすぐに書き込めるUIになっていることも、メモ書きでもいいから書いておく習慣がつきやすかったように思います。
「何でも書いて」全社展開でも気軽な利用を促す。ナレッジを通して助け合う場面が生まれた
── その後、ワーキンググループでの導入から全社展開に至るまで、どのような取り組みをしましたか。
西村様 ワーキンググループで一定期間利用した後にアンケートを取ってみると、Cosenseに肯定的な意見もあれば、仕事に直接関係しないページは要らないなど、マイナスの声もあがりました。こうした意見をふまえながら、淺井や井ノ上を中心にCosenseの社内説明会を開いたり、記事の書き方にまつわるページを置いたりして、全社への浸透活動につなげました。
一貫して意識したのは、「何でも書いてOK」と繰り返し伝えることです。会社全体で、カジュアルに使う雰囲気づくりを定着させたいと考えていました。
淺井様 気軽にCosenseに書き込む文化を育みたいと思い、私のアイデアで「日付ページ」の運用を始めました。タイトルに日付を入れ、そのページに今日の業務内容や感じたことなどを、書きたい人が何でも書いていく雑談場所のようなものです。
井ノ上様 日付ページで、私が独り言のように「アプリが思うように動作しない」と書いたら、「この方法で解決できましたよ」と、いつの間にか他のメンバーから情報をもらえることもありました。それがきっかけで、技術知識に関する新たなページができることも自然と起きています。
淺井様 Cosense導入前は部門を超えた交流はほとんどありませんでしたが、井ノ上が挙げたようなやり取りが、今では自然と増えているように思います。技術的に困ったことがあれば、自然と助け合うシーンが起きているのです。
他チームの技術情報がCosenseで収集しやすくなり、製品プロトタイプ開発にも活用
── 現在のCosenseの運用体制や利用状況、感じている効果についてお聞かせいただけますでしょうか。
西村様 Cosenseを全社導入する土台づくりをした技術共有ワーキンググループは、2020年から「ナレッジマネジメント委員会」という体制になり、Cosense活用の啓発のほか、Cosense上で社内のプロジェクトを紹介するなど、ナレッジ共有の活動を継続しています。
社員同士の技術情報の交換の場である「Meisters(マイスターズ) 」の運営もナレッジマネジメント委員会が行っていて、その勉強会の内容もCosenseに記録されていくようになりました。
Meistersの活動はCosense導入以前から行われていましたが、Cosenseの運用が浸透したことによって、勉強会の議事録が探しやすくなりました。Cosenseは更新した順にページが並ぶので、勉強会があることを認識していなかったとしても、Cosenseを見れば「今日こんな勉強会があったんだ」と気づいて、ページにアクセスして内容を見ることができます。
「KnowledgeBox」としてCosenseが活用されている
淺井様 社内では毎日のようにMeistersの勉強会が行われているので、今度どのような勉強会が予定されているのかが一目でわかりやすいよう、開催スケジュールの一覧ページも作成しました。このような工夫も気軽にしやすいのが、Cosenseのメリットですね。
西村様 Cosense導入から5年ほど経ち、多くのメンバーの活用と創意工夫のおかげで、運用が軌道に乗ったことを感じています。以前のように多くの時間をかけて他チームがもつ技術知識や専門用語を調べることはなくなりました。
井ノ上様 当社はこれまでソフトウェアを受託開発するケースが多かったのですが、最近は自発的に開発したい製品を考えて動くことが推奨されています。そのプロトタイプを作るための調査段階から他チームの知識が必要になるのですが、その際にもCosenseが役立っています。
ナレッジをもとにコラボレーションして、情報から新たな価値を生み出す段階へ進みたい
── 今後の展望をお聞かせください。
井ノ上様 今後も気軽に書き込む文化を保ちながら、Cosenseを活用するメンバーをさらに増やしていくための仕掛けを考えていきたいと思います。
大切なのは、楽しく使うことです。楽しいからいろいろなことを書き、それが結果として誰かの役に立つ情報になったり、社員同士が助け合うきっかけにつながったりするからです。
淺井様 当社は事業部外秘の情報もあるものの、Cosenseの活用を進めることで事業部ごとの垣根をなくし、ナレッジ共有をもっと加速していきたいと思います。
西村様 バックオフィス部門は、人事などの機微情報があるのでCosenseの活用は限定的になるかもしれませんが、さらに全社で幅広くCosenseを活用できる方法を引き続き模索していきたいと考えています。
ナレッジマネジメント委員会は、私が初代の委員長をした後、今は井ノ上が委員長を務めています。このような自主活動は熱量が下がりがちなことが課題です。Cosenseの運用についても、我々3人は導入時から活用しているので高い熱量をもっていますが、その他のメンバーも巻き込んで、このエネルギーを保っていくことが必要です。プライベートでCosenseを使っていたという新入社員も何人かいるので、そのようなメンバーが啓発活動に参加してくれると理想ですね。
Cosenseの利用が文化として定着してきたからこそ、今後はコラボレーションをしたり、新しいアイデア作りに活用したりする段階に移行していきたいと思います。コラボレーションが起き、情報から価値を生み出すという次の一歩に進んでいきたいですね。
── 最後に、貴社と同じような課題を抱える企業へのメッセージをお願いいたします。
西村様 Cosenseに限らず、ツールの浸透や文化づくりは意志をもって進めるべきだと考えています。ツールそのものが便利でも、習得するコストがかかる以上、人は慣れている方法を変えることができません。
そう考えると、最初に少人数の熱量高いユーザーをつくり、仲間を増やし、文化にするステップを踏むことがポイントだと思います。「最初の少人数」をつくるのが大変なのですが、その壁を越えると浸透が進みやすいのではないでしょうか。
今振り返っても、もともと文化があった私たちであっても、これだけ時間と労力がかかります。ナレッジは長い目で見て必ず会社の財産になりますから、それだけのリソースをかける価値があります。
現実的な視点としては、費用対効果も意識するといいと思います。Cosenseのようなナレッジマネジメント活動は投資対効果を定量的に出しにくいものですが、我々は無料トライアル期間に蓄積したい情報量だけでなく、ナレッジ集約による効果、ユーザーからの意見、コミュニケーション活性化の様子など副次効果も示して社内の理解を得ていきました。
こうした計画を立てて、意図的に文化を醸成していくことはナレッジ共有において欠かせないことだと考えています。